手漉きの和紙を折りたたみ、そのマス目ごとに渾身の力でパステルの粒子を擦り込み着色する。紙の繊維は綻び、パステルの塊は砕け、粒子が宙に舞う。防塵マスクをつけてのその作業はまるで、目の前の作品と格闘しているようだ。作家の意識はただそのマス目にのみ集中し、時間をかけ体力と意志の限界まで繰り返し続けられる。すべてのマス目の作業が終われば、また一枚の紙に戻され、全容が明らかとなり吉永裕の世界が現れる。
繊維と粒子、なじまないものどうしを力ずくで引き合わせることにより、やがて和紙は色に、色は和紙へと変化を遂げる。
線と色だけのシンプルな画面に広がる優雅で豊潤に創造された世界は、圧倒的な存在感を放ち、見るものを陶酔させる。
水の惑星、地球の美しい色彩。差し込む太陽光で様々な色に変化する海景。
作家が70年代、活動の拠点としていたアメリカ西海岸、サンフランシスコをはじめ、
かつて歩いた地の水のある風景に思いを馳せて作品に表現している。
人間をはじめ生物の息吹や精神、歴史を記憶し積み重ねてきた土壌から新たに発生する美しく豊かな創造物を、
作家の感性による俯瞰で描き、その作品からは顕在するモチーフの本質、現出過程をも感じられる。
吉永 裕 展 -水・地・光-
会期:4月16日(水)〜29日(火・祝)
会場:西武池袋本店6階=西武アート・フォーラム
作家来場:4月19日(土)・20日(日)・26日(土)・27日
吉永裕/YutakaYOSHINAGA
1948年長崎県生まれ、東京都在住。
'72年より個展を中心に発表を続ける。国内はもとよりメキシコ、イタリア、アメリカ、韓国など世界的に活躍。'87年、シケイロス文化ポリホルム美術館(メキシコシティ)では日本人として初の大規模な展覧会が催され、作品が購入された。精力的に行われた創庫美術館・点(新潟)の個展の後、神奈川県民ホールギャラリーの現代作家シリーズとして、主要作品からなる初めての回顧展('83)が行われる。また'85年、福井県で行われた現代美術今立紙展で大賞を受賞。作品の出品はそれより早い'83年で、優秀賞受賞。同年「ハラアニュアル展('85)」原美術館(東京)。'01年、釜山メトロポリタン美術館では韓国、中国、日本のアーティストによる大規模な展覧会が開かれた。また、近年はブリストル市立美術館(イギリス)('01)、シェーマ美術館(韓国)('10,'11)などで、展覧会多数。2014年、NYメトロアートフェア(アメリカ)に出品、パリでも展覧会予定。
銅版画
1996年、アメリカ4大版画工房の雄クラウンポイント工房に招かれて初の銅版画に取り組む。
翌年、同工房35周年展でナショナルギャラリー等巡回。
2002年、銅版画に興味を持ちつづけ、奈良の徳源寺工房(ポール・マロゥニーによる)で吉野の和紙を使用した銅版画に取り組む。
教育・ワークショップ
練馬区立美術館 東京(地域住民対象)1990年11月3日-17日
板橋区立美術館 東京(地域小学生対象)1995年12月2日
武蔵野美術大学(短期大学部 特別講義)1997年10月3日-17日
富士市(地域小学生対象)2000年11月3日
コレクション
今立町(福井)
千葉市美術館(千葉)
東京オペラシティアートギャラリー
シケイロス文化ポリホルム美術館(メキシコ)
デュッセルドルフ市美術館(ドイツ)
リオデジャネイロ美術館(ブラジル)
スミソニアンナショナルギャラリー(ワシントンDC)
新千歳空港(ANA)、成田空港(ANAファーストラウンジ)
日本航空JAL(東京)、伊丹空港(JAL)、中部国際空港(JALサクララウンジ)
株式会社コクヨ(東京)
アンダーセンコンサルティング(東京)
ナショナル・キャッシュ・レジスター社
住宅金融公庫(総裁室)
国立長崎中央病院(長崎)
ホテル西洋(東京)、プリンスホテル(岐阜)、ホテルオークラ(カズサアカデミーパーク・千葉)
ジャカルタホテル(インドネシア)
横浜美術館(神奈川) 他、多数